未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

OSSにとってどのような支援策が必要か?

日本にはソフトウェア産業は必要か?と大上段に構えられると、うーん、ないよりあったほうがいいじゃない?という消極的な賛成程度しか得られないような感じがしている。IT戦略会議というのが日本のIT戦略を議論すると言うことで何年か前に話題になって、そのせいかかどうかはしらないけど、結果として高速インターネット網を家庭まで届けちゃった。国家目標としてITというのを打ち出してそれなりの政策を実施し、ソフトバンクをはじめとする企業努力の結果、ブロードバンドの社会が実現した。
ITの根幹はソフトウェアなんだからそれを振興して何が悪い、ソフトウェアがなければそもそもITなんて成立しないぞと思うのだけど、産業としてのソフトウェア製品を日本国内で製作し販売している会社が極めて少ないので業界圧力団体(?)としての声は非常に小さい。ましてやOSS業界なんていうのは産業の規模から言えば誤差の範囲なので業界としてOSS振興策を経済産業省にお願いに行くなんて事はほとんど考えにくい。(ないとは言わないけれど)。日本経団連OSS振興策を政府に要望したなんてニュースは聞いたことがない。そもそもそのような従来型の重厚長大振興策なんていうものはOSS振興策には存在していないといっても過言ではない。IPAオープンソース基盤整備事業だって数億円の予算規模なので経済産業省全体の予算から見ればやはり誤差の範囲のようなものだ。従来の振興策で言えばね。
なんだか非常に消極的な話になっちゃっているが、ソフトウェア産業を振興することが善であるという前提で話を進めていきたい。
再三繰り返しているように日本にOS専業ベンダというのはほとんど存在しない。一部の組み込みベンダーが組み込み用OSをビジネスにしていたり、メインフレーマが従来のOSをメンテナンスしていたりするが、そこに従事している人々というのは数からいっても非常に少ないことが推定されるし産業として存在しているというわけではない。OSだけじゃなくてRDBMS専業ベンダーとかWebサーバ専業ベンダーとか、いわゆるミドルウェア、そしてアプリケーションソフトウェア製品ベンダというのもほとんどいない。ワープロジャストシステムとか会計ソフトの弥生、勘定奉行などなど国内でシェアを持っているものはいろいろあるが世界規模で競争力を持つものは残念ながらほとんどない。
ソフトウェア製品を製造、開発、販売、サポートすることがビジネスの根幹という会社があんまりないというのが日本と言う地域のおかれている状況である。OSなんかはもうあきらめちゃったんだからどーでもいいっすよ、という立場もなくはないけど、わたしはその立場を取らない。だからと言って国策OSを税金をぶっこんで作るべきだなんてことも言わない。政府は日本最大のITユーザーなのだから政府調達のソフトウェアはすべて国産であるべきだなんて時代錯誤な事も言わない。
日本と言う地域で自立的にソフトウェアというものを持続可能な形でビジネスとして成り立つような環境を作ることが日本と言う地域にとって重要でかつそれが世界にとっても利益であるような解が発見できるととうれしいなあと思っている。地球上のある地域が他の地域と比べて競争優位で価値を創造できればマクロで見れば価値が増えるので世界にとっても利益がある。日本と言う地域でそのようなことが可能になるようなモデルというのがあるのか、ないのか?
ソフトウェアというのは機械が作るものではなく人が作るものである。であるから一番重要なのはソフトウェアを作れる人材を日本と言う地域にどれだけ確保できるかどうかにかかっている。継続してそのような人材を供給するためには仕事としてそのような経験をつめるような環境がなければならない。それは取りも直さずビジネスとしてソフトウェア産業と言うものが成立していなければならない。鶏と卵である。
90年代の勝負では負けちゃったのでここで一発逆転を狙ってゲームのルールを変えOSSで勝負をかけようと言うのが多分経産省の若手官僚の考え方なのではあるまいか?わたしの推測と願望の混じった感想である。
産業振興というのは実は世界的なプレイヤーを大量に持続的に排出するような環境を作ることなのかなあと思ったりもする。
OSSにとってどのような支援策が必要かということを書こうと思ったら話がそれてしまった。失礼しました。
Rubyのまつもとさんがhttp://www.rubyist.net/~matz/20060208.html#p02

まあ、官による支援は「ばらまき型」になりがちで、それでは自助自立が成立しないということについてはわからないでもない。「官がやるべきこと」、「民間に任せること」についてもっと深い議論が進むことを望む。

というような指摘をされているが、それについてはまた別途。
風間さんからもトラックバックをいただいた。http://d.hatena.ne.jp/kazama/20060212/p1

しかし,ICOTの良かった点は,日本の大学・企業の研究者・開発者が一同に集まって議論できる場を作ったこと,そして海外研究者を招聘すると同時に日本の大学・企業の研究者・開発者を海外に送り出して対等な立場の技術交流を実現したこと,そして日本のインターネットインフラの整備と普及に一役買ったこと(実はその資金と設備と人材によって,当時日本のインターネット網で重要な役割を演じていたのだ)だと思っている.

これはまったくそのとおりだと思う。人々の交流によって様様な価値が生じた。その場を作った意義は大きいと思う。

そしてプロジェクト解散後に,関係者たちが日本のさまざまな大学や企業に散って日本を活性化させたのだ.

人々を育てたと言うことは大変な成果だと思う。だけど、あえて言うけど、企業に戻った人々の経験と知識は多くの場合死蔵され現在生かされていないように感じる。日本の企業の人材流動性の低さ、あるいはIT産業のなんともいえない閉塞感とでもいうようなものがあるように感じる。ICOTで経験したことを武器にその経験を生かせる職場に移った人がどれだけいたのか?確かに企業から大学へ行った人は少なからずいたことは間違いない。しかし、それを企業に戻って仕事として自分のキャリアとして生かせなかったとしたら、いったいその経験にどれだけの意味があるのか?壮大な無駄遣いではないか?大変残念な気がする。
同じ国家プロジェクトでも半導体関係の国家プロジェクトの場合、参加者はプロジェクト終了後、出身のメーカに戻ってそれぞれが自分のキャリアの中でその経験を生かせたと聞く。その差はいったいどこから生じたのか?検証するに値する問題だと思う。