未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

スパコン騒動。京速計算機は割高。

スパコンの開発が日本のコンピュータ産業になにがしかの新しいものを与えるか。そーゆー観点から言うと多分何もないと思う。

もちろん物理学者や遺伝子工学には速いコンピュータが必要だし、社会的にはそのような需要は無限にある。科学者が速いコンピュータを常に必要としている。それはそのとおりだと思う。

速いコンピュータが必要とか必要じゃないとかいう話ではない。

スパコン騒動の何が問題なのか。

それは、ムーアの法則を理解していない人たちがコンピュータ(あえてスパコンとは言わない)を設計しているということだ。筋が悪い設計をしているということだ。

専用コンピュータというのは経済的に立ち行かない。それは、80年代に各種Lispマシンなどが商業的ににっちもさっちもいかなくなったことからコンピュータ業界は学んだはずなのに、日本の大手ベンダーはそれからまったく学んでいない。

なぜ専用コンピュータは性能競争に負けるか。

専用コンピュータが汎用より2倍速い性能を持っているとする。しかし、専用コンピュータなので、設計に2倍時間がかかるとする。例えば開発に3年かかるとする。そうすると当初目標とした2倍の性能というのは、3年たってみると、汎用コンピュータがムーアの法則によって(18ヶ月で倍の性能)、4倍の性能をあげるので、専用コンピュータは性能面で競争力がまったくなくなるのである。とほほ。なので、コンピュータは汎用部品(Intelのプロセッサ)を利用して作るのが業界の常識なのである。

地球シミュレータが独自設計でSupercomputerTop500の一位を取ってしまったものだから、話がややこしくなったのであるが、現在Top500にあるコンピュータは地球シミュレータを除いてすべてスカラー方式である。

問題は2012年に10PFLOPSのマシンを1100億円という金額で調達するということである。めちゃくちゃ高額だということである。その金額で、もっと多量の計算資源を買える。

インターネット時代のコンピュータというのはデータセンタである。

10万台のコモディティサーバーを持つデータセンタの建設コストを試算してみる。サーバはIntel X5570相当のものにして、20万とすれば、それで200億円。1台あたり200Wの電力を消費するとする。データセンタの建設には1Wあたり10ドル位かかると言われているのでそれで200億円。(20MW*10)計算量は一台あたり50~80GFLOPSなので、5~8PFLOPSとなる。3年後には4倍の性能を得られるので、20〜32PFLOPSを400億円で得られるのである。京速計算機より一桁安く買えるのである。

1Kwhあたり20円くらいの電気代がかかるとすると1Mwh2万円となる。一年の電気代は2万*20*24*365で、年間35億円。空調その他の電気代をその半分と見積もると約50億円の電気代となる。京速計算機の年間運用費用は80億円らしい。

確かに10万台のコンピュータを並列に効率よく実行するのは非常に難しい。研究開発する価値があるとすれば、そのような大規模並列計算機の効率のよいソフトウェアの研究だ。

いずれにせよ、京速計算機は割高だと言える。

The Datacenter as a Computer: An Introduction to the Design of Warehouse-Scale Machines http://www.morganclaypool.com/doi/abs/10.2200/S00193ED1V01Y200905CAC006

追記

下記のプレスリリースによれば、富士通製の45nmのSPARC64を利用する。http://pr.fujitsu.com/jp/news/2009/07/17.html *1

一方で、報道によれば、富士通製の汎用PCサーバ「PRIMERGY RX200 S5」1024台(2048CPU、8192コア)で、97.94TFLOPSを達成している。http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0908/10/news005.html

現時点でですでに1000台で約100TFLOPSを達成しているのである。10万台換算で約10000TFLOPS(10PFLOPS)である。

2009年のテクノロジーを利用して達成可能なものを、2012年まで1100億円突っ込む意味が分からない。Intelプロセッサであればはるかに安く早く構築できるというのに。Intelのプロセッサであれば、ムーアの法則により、32nmの次世代プロセッサが登場しているし、2012年ころには、さらに22nm程度のプロセッサが登場する可能性もある。

富士通の現場のエンジニアも当然それを理解しているはずである。なぜ、富士通製のSPACK64にこだわるのだろうか。