未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

ジョイ・インク、読了

川口さんが持っていたジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメントを読んだ。

著者が2001年に設立しCEOをやっている会社(以下メンロー社と呼ぶ)を題材に、ソフトウェア開発のマネジメント手法について書かれている。本書をソフトウェア開発手法の解説書だと捉えるのは狭すぎる。広い意味での組織マネジメントの実践書である。そのユニークなことは「喜び」を追求していることだ。

「喜び」をマネジメントの主眼に置いているだって?意味がわからない。お前は何を言っているのだ状態である。

詳しくは本書を読んでいただきたいのだが、本書で紹介されている手法の多くは、XP(エクストリームプログラミング)、スクラムなどアジャイルソフトウェア開発として知られている。

それらの手法を愚直に実践しているところが著者の会社の強みであり、凄みである。

例えば、ペアプログラミングで毎週メンバーを入れ替えるとか、XPの導入も徹底している。

3章で、実際の作業について詳細に紹介している。ペア作業で新しいことを学んだり、ラーニングランチと称する社内勉強会を開催したりしている。それぞれのプラクティスは、ちょっとしたことかもしれないが、それを持続しているところがすごい。

採用の方法もエクストリームだ。(5章)

従来型の採用プロセスは双方がウソを言い合う。これは双方にとって不幸な結果を生むことは経験値としてもよくわかる。

メンロー社の採用プロセスはユニークだ。候補者を集めて30名〜50名で集団インタビューをする。最初に会社の理念や集中的なインタビューする意義を説明する。候補者がペアを組む。そのペアにはメンロー社員が観察者として参加する。そしてペアを替えて3つの演習に取り組む。ソフトウェア開発者の場合は、ソフトウェア見積もりをすることが多い。演習の狙いはチームワークを見ることで技術的なスキルを確かめることではない。パートナーが困っていれば助ける。そのようなことだ。

観察者は、毎回別々のペアを観察する。30人候補者がいれば、15人の社員が観察者として参加することになる。候補者それぞれについて5分ほど話す時間を取る。ある候補者について3人の観察者が投票する。一緒にペアを組んでもいいか、十分なチームワークスキルがあったか、などの観点から投票をする。3人がOKを出したら二次インタビューに招待する。3人ともNGなら次はない。そして、それ以外の場合(賛否両論)は、議論が必要になる。この議論が自分たちの文化についての明示的な理解を助けることになる。

二次インタビューに招かれた人は丸一日実際の仕事をペアでしてもらう。もちろん一日分の賃金は支払う。社員とペアを組むことによって、チームワークや技術スキルが正確に把握される。そして、社員の評価によって、三週間の有償契約を結ぶか決める。そのトライアルがうまくいけば採用される。

候補者はトライアルを通じて会社の文化を知ることになるし、会社は候補者の性格やスキルをかなり的確に理解する。双方にとってメリットはある。

このような組織運営はスケールするのだろうか?(12章)

「喜んで報告しよう。ブルックスの法則は打破できる」(242ページ)

ブルックスの法則とは、遅れているソフトウェアプロジェクトに人員を追加するとますます遅れるというもので、ソフトウェア開発業界では広く知られている法則である。

メンロー社はブルックスの法則を何度も打ち破っているという。本当か?そんなことは可能なのか?50年以上真実として知られていた法則を打ち破っているという。

その秘訣がペア作業だという。ペア作業をすることによって、学ぶ機会、練習する機会が与えられる。ペアを組む、ペアを組み替える、参加する、離脱することなどによってチームはスケールするようになる。

そして、スケーラビリティは両方向に使えるという。スケールアップ(人員の増加)とスケールダウン(人員の減少)。これも目からウロコの話である。通常はキーパーソンが抜けると、プロジェクトは立ち行かなくなるが、ペア作業を続けていると、誰でも離脱可能になる。

本書の驚きの幾つかを紹介したが魅力が全く伝わっていない。ぜひ、一読をお勧めする。自分の仕事に喜びを導入すること。それが可能か。本書にはそのヒントが詰まっている。

誤植らしきもの:
誤「大学の人類学部でなはい」(153ページ)
正「大学の人類学部ではない」