未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

RDBMSを作るという事

Codd博士が1970年ごろデータベースにおけるリレーショナルモデル(関係モデル)というのを提案して以来、RDBMSは一大産業になった。どのくらいの経済規模があるのだろうか?専業ベンダーの売上だけでも1兆円は軽く越えるだろうから周辺ベンダーへのインパクトを考えればとてつもない経済的なインパクトを与えたことは間違いない。Larry Ellisonをはじめとする商売上手な人々の貢献もはかりしれない。
70年代中ごろIBMのSan Jose研究所のグループはSystem Rという実験RDBMSを作成し、同じころUCBのStonebrakerのグループはIngressを作成した。それ以来、様々なグループがRDBMSを試作し、Larry Ellisonがそれを商用化した。80年代は、ハードウェアベンダーが作るRDBMS(例えばIBMのDB2)ではなく、独立系(Oracle/Sybase/Informixなど)のベンダーが作るRDBMSが市場をせっけんしはじめてきた。日本では垂直統合型のベンダー(富士通、日立、NECなど)がRDBMSを試作していた。時代は垂直統合型のベンダーが支配する市場からRDBMSならRDBMS、OSならOSの専業ベンダーが市場で力をもつ、いわゆる水平統合型へ、シフトしていた。
RDBMSの先駆的な研究は西海岸ではUCBやStanfordが先導していた。そしてシリコンバレーの当時はベンチャーだった企業規模では弱小なOracle/Sybase/InformixなどがRDBMSを実装し市場に投入していた。
そしてハードウェアベンダーが開発したRDBMSではなく専業ベンダーが開発したRDBMSが市場を支配した。
わたしは90年代中ごろRDBMSの市場の趨勢に勝負がついたころシリコンバレーに赴任した。時代はインターネットに大きく舵をとっているころである。RDBMS専業ベンダーのRelational Language Groupというところに所属してSQLエンジンの実装にかかわった。RDBMSは大雑把に言ってData Storage Layerという主にトランザクションやデータ格納に関与する層とRelational EngineというRDBMSRDBMSらしいいわゆる関係演算を司る層とに分けられ、前者を下半分、後者を上半分と言ったりするが、わたしは上半分のグループにいた。上半分のSQLのエンジンを実装する20人強のグループにいたのだが、毎週のミーティングは、新人の自己紹介からはじまるのが定例だった。毎週毎週というのは若干おおげさかもしれないが最低限でも隔週に一人ぐらいは新人が入って来ていた。もちろん中途入社で即戦力である。前職はSybaseやらInformixやらIBMやらTeraDataやら様々である。一年でグループの人数は倍くらいになる。当時Oracle 8 というObject Relational なDBMSを作っていて創業以来最大のプロジェクトであった。中途入社で業界経験10年選手はぞろぞろいる。脂ののりきったばりばりのエンジニアがどんどん入社してくるというイメージである。人材流動性が高いからOracleからSybaseやInformixに転職する人も少なくない。新興勢力のベンチャーに転職する人も少なくない。
シリコンバレーという地域で優秀な人材が自分の専門性を高めつつ転職していくというイメージである。技術者は自らが望めばとことん専門性を高める事ができる。技術に拘る一方市場に対しても敏感で自らの技術をどのように市場価値を高めるかというセンスもある程度は兼ね備えている。
技術系の企業の場合、成長のボトルネックは優秀な人材をどれだけ確保できるかというところにある。必要な時に必要な人材を確保できれば事業はスケールする可能性が高まる。企業買収が有効な戦略になるのは、優秀な人材を束で確保でき、それによって事業をスケールさせることができるからだ。単なるマネーゲームではない。
シリコンバレーの優位性はそのような優秀な人材の流動性が高いため、カネさえあれば、ある程度のチームは作れるし企業買収がそれを加速する。それが地域としての競争優位性を持っている。人が人をよぶ。
RDBMSというのはもちろん一人では作れない。優秀なプログラマを大量に雇用してチームで開発する。ジュニアなプログラマからベテランまでバランスをもったチーム構成が必要である。
Oracle/Sybase/Informix/Ingress/TeraData/...を渡り歩くプログラマは自分のやった仕事に誇りを持ってキャリアを積んで行く。経験を積めば積む程、修羅場を潜れば潜る程専門性はまし、プログラマとしての価値を高める事ができる。シリコンバレーRDBMSコミュニティが一流のプログラマを育て育む。同業他社は競合であることは間違いないが一方でプログラマという人材を共有しているコミュニティでもある。
残念ながら日本企業はそのコミュニティの中には存在しない。
RDBMSシリコンバレーと言うコミュニティによって作られているのである。