牛角の思い出
妻から会社に連絡があって腰痛で動けないから助けて欲しいとのことなんで、月曜日、会社を早退した。
完璧にうごけなくなっちゃってていて、昔貰った痛み止めでどうにかなっている状態で、それも切れてもうにっちもさっちもいかない。夜になって、とうとうどうしようもなくなって救急車を呼んで近所の病院に運んでもらって、痛み止めの座薬を処方してもらった。
無理やり頼み込んで一泊入院させてもらって、病院というのは24時間体制で大変だなあと実感した次第である。夜勤の看護婦さんに大変ですね、などと言うが普通ですから、との答え。プロフェッショナルである。救急車とか24時間体制の病院とか日ごろお世話にならないと意識しないがそのようなインフラを支えているのはあなたのような一人一人のプロフェッショナルだなどど思った。
次の日は、会社を早退して、久しぶりにカレーなんかを作って日ごろ会話の全くない娘とぼそぼそと会話して早めに寝る。さらに次の日は、遅めに起きてきた娘に残りのカレーをあげて、会社は一日休みをとる。
夕方病院に妻の様子を見に行くのだけど、主治医の先生が手術中とかでMRIの診断結果がまだでなくて退院できるかどうかが定かではないということで、娘と二人で近所の牛角へ行く。娘とデートなんてはじめてである。
とりあえづ、中生。とか言ったら、中生2つですか?とお店の人に言われるが、おいおい高校一年生だぞと心の中でつっこむ。娘も同じところで突っ込んでいた。いつのまにかに大きくなったものだ。
ぼそぼそと二人で話をはじめる。
映画を最近良く見ているらしい。
娘;〜って知っている?
私;知らない。
娘;だめだこりゃ。
ナイロビの蜂という映画があるらしい。
人生のトップ5に入るね。他の4つは?わからない。だけどいいよ、お父さんも見な。ふーん。
まあ、それはそれ、これはこれである。
ビールは7時前なので半額である。ちなみに5時開店と同時に入った。貸しきり状態である。
いつのまにかにおおきくなっちゃって、162センチである。お母さんをとっくに追い越している。
二人でぼそぼそ話す。
先日研究室のOB会があったんだけど、XXさんのお嬢さんが教育実習でXXX中学高校に行っていてXXXの生徒はみんなまじめだったって言っていたよ。それって単なる美辞麗句なんじゃないの?いや美辞麗句する必要ないでしょう。なんか数学を教えたらしいよ。ふーん。宴会の席でその問題を出されちゃって、全然問題分からなくて汗かいちゃったよ。
二人でぼそぼそ話す。
なんか去年の今ごろビルゲイツが来て講演したらしいよ。なにー知らないんですけど。どゆこと。
二人でぼそぼそ話す。
ビールも半額なので3杯も飲んだし、カルビもロースもタンも腹いっぱいである。満腹でいい感じである。日ごろ娘とは全然話をしたことがないのに、妻が入院なんかしちゃったものだから、ひょんなことで話す。
とことこ、歩いて病院への坂道を登りながら、お母さん意外と良さそうだったね、よかったね、そうだね、などとぼそぼそ話す。
病室に行くとすっかり退院の準備をした妻が待っていた。さあ、それじゃあ帰りましょう。3人でそろそろゆっくり歩いて帰る。
日ごろ会話のない父娘であるが、妻が腰痛で入院なんかしちゃったものだから、ぼそぼそながらいろいろ会話をした。
妻にとっては大変な痛みだったとは思うけど、そしてそのような機会がないと話もできない父娘というのもどうかと思うのだけど、まあそれはそれこれはこれということで、妻に感謝をしたい。
家に帰ってからも、U-20プログラミングコンテストがどうだとか科目は何が得意なのかとか、別に得意じゃないけど、好きだとか嫌いだとか、文系なのか、理系なのかとか、文学部じゃないよなあ、とか取り留めのない話が続く。ウェブ進化論って知っているかと聞くと、うん知っているよ。そうかそうか女子高生もウェブ進化論を知っているのか、そりゃすごいなあ。
お父さんは自分の事何も話さないよね、全然知らないんですけど。そうだね、時々は話をちゃんとしよう。うんうん。
自分のことや仕事のことや今何を考えているか時々娘に向かってちゃんと話をしないといけないなあと思った次第である。そして娘の話をいろいろ聞きたいと思った。
そんなあなたも今日で16歳。おめでとう。お父さんはあなたのことが大好きだよ。