未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

なぜシリコンバレーは復活し、ボストン・ルート128は沈んだか。

「現代の二都物語」を読んだ。

米国東海岸ボストン近郊の、ルート128。そのまわりには、70年代ハイテク企業がひしめいていた。ボストンにはMITやハーバート大学がありハイテク産業に人材を供給していた。DECや、DG、ワングなどのミニコンピュータベンダーがそこにはあった。

そのベンダーがなぜ競争力を失って、シリコンバレーに破れるのか。地域としての優位性を保てなかったのか。それについて本書は書いている。

結論から言えば、一社で上から下まですべて作り上げる垂直統合型のビジネスモデル、それが東海岸ボストン・ルート128の企業の典型だった、それが自社の技術に固執するばかりに時代の変化に取り残されて、破れさっていくということである。

シリコンバレーでは、各社は自分の得意なところ以外は積極的に外部から調達する。コンピュータベンダーですら、CPUからなにから何まで外部に依存したりする。水平分業型のビジネスモデルの方が、変化に追従しやすいし、開発のスピードも速い。

18ヵ月で性能が2倍になるムーアの法則の時代に生きているコンピュータベンダーは自社の技術に固執しているとコストが高いだけではなく陳腐化した競争力のない製品を作りかねない。開発のスピードが速いということ、それが競争力になる。同じ性能のコンピュータを18ヵ月後に出荷するとしたらライバルは2倍の性能あるいは半分の価格のものを市場に投入しているということだ。

垂直統合型の企業は自社でなにからなにまで作ろうとするので秘密主義になるし、外部の企業とのコラボレーションはほとんどない。

一方水平分散型の企業では、外部の企業とのコラボレーションが前提なので、情報を公開し共有する。さらに人材は産業内で流動するので、ノウハウは緩やかに人とともに流通して、シリコンバレーという地域全体で学習していく。

情報を秘密にするのではなく、公開する。独自技術に固執するのではなく汎用技術を利用する。

人と人とのネットワークが地域としての価値を高めていく。自前主義ではなくモジュール化を前提としたコラボレーションが競争力を持つ。

自分にとっての本書の記述にほとんど違和感はなかった。

1989年〜90年にボストンから車で1時間ほどにあるニューハンプシャー州ナシュアというところにいた。DEC Rdbの国際化をするために日本DECから赴任した。89年というのはベルリンの壁が崩壊した年だ。日本はバブルに沸いていた。DECも業績はピークを越えていたし、日本もバブルのピークを向かえていた。しかし、ピークの時は、ピークであると意識することはできない。後に、あの時がピークだったと気がつくだけである。

企業と従業員の関係。

『専門家としての忠誠心や友情は、転職の騒動ではなくならないのが通常だ。それどころか、絶え間ない移動の繰り返しは、個人的な人間関係の価値をかえって高める傾向があった。専門家としての成功に必要な長期的人間関係が、ある一つの企業の社内で見つかると思っている人はほとんどいなかった。多くの人は見本市や技術的な会議、非公式な社会的な集まりを使って、自分の専門家ネットワークを維持拡大したのだった。
結果としてシリコンバレーのエンジニアたちは、ここの企業や業界に対するよりも、自分の仲間たちや、技術を進歩させるという目的に対して高い忠誠心を発達させた』

これは企業の利益と反しないことをシリコンバレーの経営者たちは体で理解している。エンジニアたちが価値を作り出していることを理解している。

仕事で得た経験というのは、特に発展途上の技術についてはどこにも明文化されていないし、形式知としての蓄積もないので、その試行錯誤、成功や失敗の経験こそが、人とともに流通して、結果として、シリコンバレーという地域に蓄積されていく。それこそがシリコンバレーの地域的な優位性を構成している。

『地域の文化はリスクを奨励し、失敗を許容した』

失敗をすることによって人々は学ぶし、先に失敗をして学んでおけばそれが競争優位に繋がる。

垂直統合の罠

『もっと重要なこととして、供給を内部ソースに頼るということは、企業が既存の技術や技能にロックインされてしまい、イノベーションやコスト削減の競争圧力が排除されてしまうことだった。垂直統合は、1960年代と70年代の長い独占製品サイクルであるなら、重要なコスト削減につながったかもしれない。だがイノベーションの速度が上がると、あらゆるシステムコンポーネントで最先端を保つなどというのはどんな企業だろうと不可能になっていたし、また狭い専門領域に特化した技術能力を、すぐにまったく別の製品に振り向けるのも不可能だった。1980年代初期になるとDECの内製品のほとんどは技術的に陳腐化していた。たとえばレーザープリンターの対等でDECのインパクト式プリンタ技術の市場優位は失われ、同社のディスクドライブは、最先端のシリコンバレー供給者に比べて二年は遅れていた』

競合同士でもエンジニアは自由に活発に議論をすることがシリコンバレーの優位性を担保していると本書は繰り返している。

イノベーションが非公式な会話から生まれるとしたら、日本各地で発生している勉強会こそが、新しい産業の息吹になるのではないか。そんな予感がする。人材は流動化するし、かつての同僚が競合会社に転職する事もある。技術に対する忠誠心は競合他社であっても自由な議論を妨げないだろう。その結果、様々な経験が共有され暗黙知が流通していく。それは、個人の能力を高めるだけではなく、所属企業の競争力を高める。

そしてそのような価値観が地域で共有されればそれがその地域の競争力になる。

日本でそのような価値観を根付かせたい。