未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

「ルポ トランプ王国」、「階級「断絶」社会アメリカ」読了

ルポ トランプ王国――もう一つのアメリカを行く (岩波新書)をイッキに読んだ。

この本スゴい。

トランプについて全く知らないし、どんな人がトランプを支持しているかも全く知らない。自分の知り合いにトランプ支持者は多分いないと思う。

大統領選の時の失言・放言などが面白おかしく報道されて、究極の泡沫候補と、少なくとも日本でのメディアを見る限りは、思っていた。(自分が)

本書は、新聞記者がトランプ支持者が多い地域を歩き回って、そこに住む人にいろいろ話を聞いたものをまとめたものだ。2015年ごろから大統領が決まる頃まで選挙戦を地道に取材していく。

トランプを支持する人はどんな人なのか。どのような人がなぜトランプを支持するのか。それを様々な人に取材してエピソードをすくい上げていく。

記者が歩いた「トランプ王国」

多くの日本人はカリフォルニア州とかニューヨーク州を聞いたことがあっても、ウィスコンシン州オハイオ州がどこにあるのかよく知らない。自分もそんな一人だ。トランプを支持する人がどんな人かなんかは考えたこともなかった。

日本のメディアもトランプの放言などを面白おかしく報道することはあっても、どんな人たちがなぜトランプを支持するかはほとんど報じていなかったように思う。少なくとも自分の観測範囲ではなかった。究極の泡沫候補としてしか報じていなかったし、そのようなイメージを持っていた。

読書会で本書を紹介されて、面白そうだと早速読んでみた。

かつての米国を支えて製造業、すなわち製鉄所、自動車工場、炭鉱などで栄えた地域が、グローバリゼーションの名の下にどんどん工場などが海外へ移転していく。

そのような場所を「ラストベルト」と呼ぶ。

ラストベルトは50年代〜70年代の豊かなアメリカを支えた場所だ。

高校を卒業し、地元の製造業、工場に就職する。車を買って、結婚して、郊外に家を買って、子供を育てる。真面目に働いていれば給料は上がり、休暇で家族旅行をする。そのような典型的なアメリ中流の生活がそこにあった。それこそがアメリカンドリームだった。

アメリカンドリームを支えた人々を丹念にインタビューする。

工場が縮小して雇用が失われていく。雇用がないので子供達は町を離れていく。町が寂れていく。

そのような町を著者は訪れてインタビューをする。

かつての栄光のアメリカを支えた製造業にいた白人の中流階級はなぜトランプを支持するのか、そのヒントが本書にある。

階級「断絶」社会アメリカ が、トランプ王国の実像を教えてくれる

アメリカの白人中流階級がどのように崩壊していったか、丁寧にデータから分析したのが階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現である。

階級「断絶」社会アメリカを補助線にして、トランプ王国を読むとその背景が深く理解できる。

グローバリゼーションの名の下に、強欲な資本主義が高度に発達して、新上流階級が生まれた。アメリカの世帯所得の上位1%が1990年前後から急速に世帯所得を伸ばすなか、新下層階級が形成されていった。

その新下層階級は、従来のコミュニティが持っていた、勤勉、正直、結婚、信仰が失われていく。

アメリカの社会が崩壊していく様がこれでもかこれでもかとデータをもとに語られている。本書に米国の問題を解決するような処方箋はない。

隣国の問題を間接的にでも理解することは、よき関係を保つための最初の一歩だと思う。

シリコンバレーやIT産業の栄光だけではない、アメリカの苦悩と実像がそこにある。

ともに強くお勧めする良書だ。