未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

雇用規制は学歴差別を助長するか

2006年4月28日の日経新聞「経済教室」で政策研究大学院大学教授福井秀夫氏が、わが国の厳しい解雇規制について「学歴偏重を助長し、所得階層を固定し、格差を拡大させる」として、その見直しが必要と主張している。(id:roumuya:20060428)
古新聞をひっくり返して連休中に読んでみた。
福井氏のロジックは、

  • 労働者の解雇に関しては、厳しい要件が課されているため、労働者の生産性が低くても使用者は容易に解雇できない。
  • 一定期間、実際に雇用して観察しない限り、労働者の生産性を正確に判定することは困難である。
  • そのため、例外は多数あるが、確率的に生産性の高いブランド大卒者を重点的に正規雇用することが、使用者にとって合理的な選択となる。

このため、次のような問題を生んでいる。

  • 就職市場での学歴による差別の極端な助長
  • 職を得てしまった生産性の低い正規雇用労働者の極端な保護
  • そのコストを賄うことによる、生産性の高い正規雇用労働者や派遣労働者、パートタイマーさらには株主の身分や給与・利益の阻害
  • 転職市場の縮小、職業生活の再チャレンジ機会の阻害

としている。
だから、厳しい解雇規制は見直せという論調になる。
吐息の日々〜労働日誌〜(id:roumuya:20060428)は福井氏の議論に対し

そう考えると、解雇規制についても現状程度がほどほどのところで、ただし具体的事案の個別事情に応じた判断ができる枠組みが望ましいと思います。それには新たに発足した労働審判制が重要な役割を果たすでしょう。

としている。参考にされたい。
で、これだけでは、お前はどう思うのだ?と問われると思うので一言二言。

ベンチャー企業の現場では。

ベンチャー企業では、採用が企業の死命を決する最も重要な活動であるから、ブランドで採用するなどというぬるい事はできないししていないと思う。(少なくともうちのような会社はそんな余裕はない)従って、雇用規制があろうがなかろうが「就職市場での学歴による差別の極端な助長」なんてのは発生しない。(どこの世界の話だということになる)
労働者の生産性を正確に事前に判断することは困難というのはその通りだと思う。大卒新規大量採用というシステムでは事前に判定することは難しい。これは異論のないところだ。従って、新卒採用というのは通常しない。中途採用、経験者のみ。経験者であれば、その人の生産性を正確に判定できるかという問題はないとは言わないが、未経験者と違って、経歴等をじっくりインタビューすればだいたいのあたりはつく。あたりがつかないとしたら、インタビューする人間がタコなだけだ。そして3ヶ月間程度の試用期間でその見極めはつく。従って極端に生産性の低い者を雇用するということは通常はありえない。(もちろんまったくないとは言えないが)
このような雇用形態を多くの企業がとれば大卒者の雇用機会が奪われる可能性があるが、大学3年4年次にアルバイトで企業の現場に入っていれば(インターンとか)、雇用側もある程度見極めが付くので双方リスクを軽減できて好ましい。雇用前提のアルバイトである。
大企業が雇用規制のために生産性の低い労働者を多く抱えているのならばそれはベンチャーにとってはチャンスに他ならないのではないだろうか。
ただ、「低生産性分野の産業が過剰人員を抱え込み、円滑な産業構造転換が困難になる」という問題はあるが、それは生産性の低い人を抱え込むという問題というよりも企業としてあるいは産業として競争力がないという話だから、希望退職やらなんやら制度的なものを考えて欲しい。
以上、素人の勝手な議論でした。

追記

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_6879.html

私自身、企業(とりわけ大企業)のミクロな立場と社会全体のマクロな立場とでは均衡点がちがうだろうなと、つまり多くの中小企業の立場も考えると、企業入社以前にある程度初期教育訓練を行うことが合理的なシステムに持って行った方が望ましいだろうと考えています。これを言い換えれば、職業人生の最初期については、解雇規制を緩やかにしておいた方がいい面があるだろうということです。ドビルパンの失敗したCPEもそうですが、労働契約法研究会報告で提唱されている試用雇用契約は、そういう観点から検討する必要があるでしょう。

教育機関が初期教育訓練をやってくれればうれしいところだが、結局学生をアルバイト期間中に鍛えなければいけないというような感じかな。