偽装死で別の人生を生きる読了、濫読日記風、その12
偽装死で別の人生を生きるを読んだ。
学資ローンでにっちもさっちも行かなくなった著者がある日思いつきで「死亡偽装」をネットで検索した。そこから物語がはじまる。ノンフィクション。
失踪請負人、偽装摘発請負人、実際に失踪した人、その家族などにインタビューをする。
失踪請負人は、顧客から料金を取って、顧客の情報を隠蔽撹乱し、そのアイデンティティを現実からもデジタル世界からも隠蔽する。必ずしも死亡偽装をするのではない。失踪を支援する人が失踪請負人だ。
死亡偽装のもっともありふれた動機は保険金詐欺だ。偽装摘発請負人はそれを摘発する。うまくいくことはまずない。大災害に乗じて捜索願を出すというのはよくある手口だ。実際911では犠牲者数の倍以上の捜索願が出されたという。テロで死んだことにして義援金や保険金をだまし取ろうとしたのだ。
偽装摘発請負人は偽装死はうまくいかないと主張する。(まあそうだ)。そのチェックリストがある。(100ページ)
- 家族や友達に二度と会えなくなることに耐えられる
- 健康だ。特別な薬や治療を必要としていない(健康保険を使えないから)
- 一年間生活できるだけの十分な資金がある
- 信頼できる共謀者が保険金の請求をしてくれる
- 別人名義の社会保障番号、運転免許証、パスポート、車、クレジットカード、銀行口座を用意してある
- 充分に時間をかけて見破られる心配のない別人名義の証明書類を用意した
- SNSは決して利用しない
- 問題解決のために他のあらゆる方法を試みた、殺人も考えたことがある
- 罪悪感がない
- ドラッグ依存やアルコール依存の問題を抱えていない
- 習慣と不名誉のリスクを冒す覚悟ができている
- 高額の保険金契約を正当化できる理由がある。つまり自分には高額の保険金に見合うだけの価値が有る
- 金を得る方法がほかにない
- 自殺を考えたことがある
- 2年以内に保険契約を結んでいない
- 自分が契約している保険会社のコンサルタントがスティーブ・ランバル(インタビューした偽装摘発請負人)ではない
保険金詐欺は犯罪だ。犯罪を犯しても偽装死を試みる人がいる。失踪の方が偽装死よりも成功の確率は高いと考えられている。借金で夜逃げする人は昔からいる。
実際に失踪した人にもインタビューしている。インタビューをしているということは偽装死を試みて結局は失敗しているということだ。
保険金詐欺をしなければ、偽装死に被害者はいないのか。そんなことはない。家族が被害者になる。死んだと教えられていた父親が後年まで生きていたと知った娘。詐欺罪で捕まり逃亡する父親から死亡偽装計画を聞かされた男子中学生。実の父親に脅され、保険金詐欺の共犯になった二十代の息子。
著者は最後に自分自身の死亡証明書を手に入れる旅に出る。米国と犯人引き渡し協定を結んでいない国に行って、そこで自分の死亡証明書を手に入れる。そんなことは果たして可能なのか。
著者は「あとに残された家族の人生がめちゃくちゃにされているのを目の当たりにして以来」本気で死亡偽装しようとは思わなくなっていた(225ページ)
その顛末は本書を読んでいただくとしてエピローグで著者は取材を通じて様々な学びがあったことを記している。
どんな事情があるにせよ、「その場しのぎの解決法を探すのではなく、自分を苦しめているものを受け入れる必要がある。中略。借金から目を背けたところで、それはさらに重大な結果を招くだけだ。一度安易な方法を取ってしまうと次々にそれに頼ることになり、あっという間に絶望的な手段を思案するところまで追い詰められてしまう」(265ページ)
そして、著者は借金から目を背けるのではなく、借金を返すことに目を向ける。一生借金から逃れられない運命に落胆して死亡偽装をネット検索した日から、5年になる。そして、これは著者の少し遅めの成長の物語だ(267ページ)
濫読日記風
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