未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

OSSはユーザにとってどのようなメリットがあるか?

OSSのライセンスに注目するとソフトウェア製品が無償になるので、タダで使えるから得。という論調がいまだにある。日経新聞(あえて名前を出す)は【無償基本ソフト(OS)「リナックス」】なんて書き方をしている。OSSのメリットは無償なのかい、とOSS業界でなくとも突っ込みたくなるが、世間一般の理解(誤解)はそんなものである。
じゃあ、商用ソフトで提供されていないようなすばらしい機能があるのか?と問われれば、それも、まあ似たようなものですねえ。ということになる。Linuxで比較すれば、OSは機能と言う観点から言えばPOSIXのなんちゃらという仕様とかOpenGroupのXXという仕様とかに準拠しているという意味では、一緒である。機能による差が歴然とあるかと言うと、はっきり言ってない。
最近多くの人が指摘するのはベンダーロックインの回避というのがある。特定の会社に過度に依存することはいかがなものか?リスクヘッジという観点から選択肢を持っていたほうがいいのではないか?という議論である。経済的に言っても一社独占の場合、技術の進歩は加速されないし(はっきり言って停滞する)、価格に関しても高止まりの傾向にあり、消費者側が圧倒的に不利な立場にたたされる。そのような状況(すなわち一社独占状態)を打破するために、ある程度恣意的に競争状態を作り出し対抗軸を無理やり作り出す。そのためにOSSを利用するという立場である。
しかしユーザから見れば、結果として一社独占状態でも、そこそこ必要な機能をそこそこのお値段で提供されていて、品質もそんなに悪くないという状況であれば、別に困っていないからまあいいやというのが本音であろう。
OSS陣営それではしょぼいぞ。商用ソフトウェアが提供できないような価値とか魅力とかを提供しないと広まらないしジリ貧になっちゃうぞ、なんて事を思ったりする。
ベンダーロックインからの回避という観点もその独占一社が顧客満足度の向上のため必死にがんばっている限り、実のところそれほど魅力的な性質ではない。確かに独占一社が横暴の限りを尽くし、暴利を貪っているのなら、対抗策をもつことは意義があるが、実際のところ独占していたとしてもそれほど長いこと春を謳歌できるわけではなく、びみょうに対抗軸が出たりしておいしい独占市場を脅かす存在になったりするが、その独占企業はさすがにそれほどバカではないので対抗馬が簡単に登場しない程度にお行儀良く振舞って自分の市場をがっつり守る。そーゆー状況が微妙なバランスの元、生じつつある。
話を戻す。それではOSSはユーザにとってどのようなメリットがあるか?
価格ではない。機能でもない。ベンダーロックインからの回避も悪くはないが特定ベンダーがお行儀がいい限り、圧倒的に魅力的な性質というわけでもなさそうだ。
OSSのユーザにとってのメリットはいったいなんなんだろうか?

いろいろ考えられるが、わたしの第一次近似は、ユーザがOSSの発展に主体的に関与できる点だと思う。開発コミュニティ、ベンダ、ディストリビュータ、ユーザなどなどOSSを利用するステークホルダは多い。そしてそれぞれの立場の下にOSSに関与しているが、商用ソフトウェアとまったく違うところはユーザがそのソフトウェアに主体的に関与できるかできないかということである。
主体的に関与できることがなぜいいのか?ユーザにとってなぜメリットがあるのか?なぜ商用ソフトウェアではそれが実現できないのか?
商用ソフトウェアの場合、その製品の方向性はユーザではなくベンダーが決定する。当たり前の話である。ユーザのニーズにあった製品を提供したベンダが生き残り、そうでないベンダが淘汰される。(過度に一般化しているが、市場経済というのはそーゆーことである。)
ユーザは自分のビジネスにしろなんにしろそれがITに依存している場合、そのITを提供している会社に依存することになる。基幹システムをある一社に依存するリスクとメリットのバランスである。
Web2.0系の会社は商用ソフトではなくOSSに依存している。自社のコアコンピタンスを提供するとき商用ソフトに依存するのではなく、ひょっとしたら機能的におとるかもしれないOSSに依存している。基幹システムすなわちビジネスの根幹を定評ある商用ソフトではなくわけのわからないOSSに依存するのはなぜか?
それはソースコードが公開されていることによって、結果として誰もが等しく情報にアクセスでき、非対称性がなく、その結果、ユーザ自身がそのOSSに主体的に関与できるということである。バグを発見したらバグをコミュニティに報告でき、それがバグなのか仕様なのかをコミュニティとオープンに議論でき、バグの修正方法についても主体的に関与できる。今後の発展性についてもコミュニティへのTODOリストの提示もオープンにできるし、方向性が不満であれば異議申し立てもできる。ユーザと開発者という対立軸ではなくて同じコミュニティへの参加者として主体的に方向性を決定できうる。どれだけ交渉力を確保できるかはコミュニティへのコミットメントに比例する。
そのように主体的に関与できることがある種のリスクヘッジになるのではないだろうか?それがゆえに、Google/Yahooなどなどインターネット企業は、特定の商用ベンダーの製品に依存するのではなく、OSSを積極的に利用しているのではないかと思う。