学生諸君、おじさんの昔話を聞いてほしい
学生時代のサークルのOB会なるものに参加したせいか、あるいは楽天がACM国際プログラミングコンテスト(ICPC) *1 のスポンサーになったおかげで学生さんとお話しする機会があったせいかは分からないが、ちょっと学生時代のよた話をしてみたい。
本日ICPCの東京大会に参加した学生さんが楽天に会社見学に来て、ランチを一緒に食ったりしたのだが、午前中はGoogleに行ったそうで、Googleでは会社見学時にNDA(機密保持契約)のサインを求められたそうだ。まあ、それはともかく、自分が学生のころの会社訪問ってどんな感じだったかなとか考えた。
学生時代(もう30年くらい前の話)、電子計算機研究会という色気もなにもないサークルに入っていて学園祭のときに機関誌を出版するというのが主な活動だった。当時は、パソコンというものはなくて、計算機と言えば、大学にあるメインフレームを利用していろいろ活動をしていた。厳密に言えばマイクロプロセッサはあったのだけど、当時の活動の中心はメインフレームだった。
わたしは、プログラムをいそいそと書くというよりも、雑誌の制作に熱中していて、特に広告を集めることに命をかけていた。2年生の時にはじめて広告集めをしたのだが、全然集まらない。前年度に広告を出稿してくれた会社につてを尋ねて行くのだがほとんど門前払い状態である。大抵は大学の先輩とかともかくコネをつたって行くのが従来の広告集めの方法だった。なんちゃら商事とか、なんとか重工とか、なんとか電機とか、大手メーカーの先輩まわりをすれば、一口3万くらいの広告はどうにかなったのだが、なぜかその年は全然集まらなかった。学生街の馴染みの喫茶店とかは付き合いで1/4ページとかの広告を出してくれてた。
ともかく広告が集まらなくて、前年度に比べて大幅減だったように記憶している。
なんで集まらなかったかわからなかったのであるが、出来上がった雑誌を持って、だめだった、なんちゃら重工とかに挨拶に行った。お礼まわりである。「今年の機関誌です。今年は広告がいただけなかったのですが、来年はよろしくお願いします〜」みたいなことを言いつつ来年につなげようという営業活動である。
担当の人が「よしおか君、うーん、(広告は)難しいと思うよ」というようなことをおっしゃる。当時、難しいという意味が、お断りという意味だと知らないウブな学生だったので、「どこら辺が難しいんですかね?」とか聞いちゃうわけで、「どうすれば簡単になるんですかね」などとトンチンカンなことを聞いていたりした。ものを知らないと言うことは怖いものなしなので、担当の方もほとほと飽きれていたのではないかと思うのだけど、噛んで含めるように教えてくれた。「君もオイルショックと言う言葉知っているでしょう」、「はい…」、「うちはね、オイルショックで大変なのよ、…」、「はい?」、「学生さんへの広告とは全部お断りしているの、悪いけど」
世の中景気が悪かったのである。確かにTVでオイルショックがどうだとか、不況がどうだとかやっていた。だけど、自分の学生生活には一切関係ないし、ふつーに授業はあるし、コンパなんかもふつーにやっていて、世の中の景気と自分の生活の関係性をリアリティを持って考えるというようなことはなかった。世間知らずもほどがある。景気が悪い会社から広告なんか貰えるわけがないということにようやく気がついたわけである。おばかな学生であった。
なるほど、景気が悪いと広告が集まらないのか。それは、困った。
そこで、考えた。先輩達が就職している重工長大企業、超有名大手企業は景気が悪いらしい。では景気のいいところはどこか。当時パソコン雑誌のはしりのASCIIとかI/Oとかトランジスタ技術の後ろの方に広告を出している会社だったら広告を出してくれるのではないかと考えた。秋葉原とかにある部品屋とか。
方針が決まれば後はそれらの雑誌の広告の出稿元をリストにして広告集めである。簡単な話である。
飛び込みの営業である。すいません〜、慶應義塾大学の電子計算機研究会のものなんですが…、みたいな感じである。なに、どーしたの。実は、こーゆー機関誌を作ってまして、よろしければ広告をいただきたく〜、ふーん、…というような会話が繰り広げられる。
いろいろな話を伺うと、「ところで、おたくのサークルは学生さんどのくらいいるの」、「百数十人はいますね」、「誰かバイトしないかな」、「!?」。
いくらでもいるだろう。バイトしたいやつなんて。広告をもらう代わりに、バイトの斡旋もする。双方利害が一致してウィンウィンである。
その時初めて知ったのであるが、企業にとって大学生というのは、人材供給源なのである。バイトという廉価な労働力を供給するだけではなく、将来の正社員の卵なのである。
企業見学に行くと人事の人が出てきていろいろ説明をしてくれたのであるが、彼らは採用活動の一環として学生をみているわけだ。まあ当たり前の話である。
一方で学生にとってみれば、バイトをすることによって、会社の内側とか事情とかをリアルに把握できて勉強になる。社会人と学生の接点というのはあるようでいて意外と少ない。広告集めという得がたい経験をしたことによって、そのような視点を得ることができた。
そして、わたしは広告を集めながら、この産業について、プログラマという職業について、考えた。ない知恵をしぼって考えた。自分は将来プログラマになるのだろうか、なりたいのだろうか、なれるのだろうか。そんなことを考えた。
本日、楽天に会社見学に来た学生さんと話をしてみて、30年前の広告集めの事を思い出した。
彼らは、この一時間の間に、何かを学んだのだろうか。企業の中の人間から何かを学んだのだろうか。何か本音をわたしから引き出したのだろうか。
せっかくの機会を十分に生かしたのだろうか。綺麗なプレゼンに惑わされてはいないだろうか。おいしい食事に惑わされてはいないだろうか。
わたしが心配することではないのかもしれない。
自分の未来は自分で掴み取って欲しい。
プログラマという職業は未だにわたしにとって魅力的な職業である。30年前に感じた以上に魅力的な職業である。そんなことを伝えればよかったといまさらながら思ったりした。