Scrum Boot Camp, The Book
読んだよ。読んだ。
アジャイル開発の手法の一つであるスクラム開発についての入門書である。入門書だからといって手を抜いているわけではない。ガチである。ガチ。
スクラムの日本における第一人者の西村さん、永瀬さん、吉羽さんによる渾身の一撃。
スクラムという手法は非常に単純で分かりやすい。トレーニングコースを2日間受講すれば誰でも認定スクラムマスターになれるくらい分かりやすい手法である。しかし、習得は困難。
知っていることと出来ることの差。
本書は、基礎編でさらっとスクラム技法を解説し、実践編でケーススタディーとして若手スクラムマスタを主人公とした物語を紹介している。
技法が単純、明解なだけに、それをどのように応用、実践するか、そのイメージを実践編で示している。
スクラムを上手に回すちょっとしたコツをこれでもかこれでもかと披露している。
ソフトウェア開発というのは、個別具体的な事情のもと、なかなかそのベストプラクティスを共有することが難しいと考えられていた。いまでも、そう思われている節がある。
本書は、スクラムという技法を軸にソフトウェア開発プロジェクトの管理のちょっとしたコツをいろいろなエピソードをもとに記している。
ソフトウェア開発は、本質的に二つの側面がある。すなわち、どう作るかという観点、もう一つは、何を作るか。
アジャイルソフトウェア開発は、前者に焦点をあてている。不確実な状況のもとに、変化に適応したソフトウェア開発の方法論である。
何を作るかが明確でない以上、明確でないものを追い求めひたすら時間を浪費するのではなく、動くものを作り、それが利用者にとって価値があるものであるということを確認しながらソフトウェアを開発していく。
計画を作ることが目的ではなく、価値のあるものを作ることを目的とする。
ソフトウェアは人が作る。
この当たり前のことがソフトウェア開発の現場ではあまり理解されていない。
人月の神話で、ブルックスが発見した、「遅れているプロジェクトに人を追加するとさらに遅れる」という法則は、未だに正しい。
そして、残念ながら、ソフトウェア開発におけるブルックスの法則を理解していない人々によって、今日もソフトウェアが開発されている。
主人公が、ブチョーから人を追加するからスケジュールを前倒しにしてやって欲しいとお願いされる。178頁〜179頁。
主人公は、それは無理だと拒否をする。その顛末は本書を読んでいただきたいが、彼はブルックスの法則を本能的に理解している。ブチョーは理解していない。
このようなエピソードをちりばめながら物語は進んで行く。
スクラムでソフトウェアを作る。様々な暗黙知を本書は提示している。ちょっとしたコツ。それが本書に満ちあふれている。
そのようなコツは実際にスクラムをしてソフトウェア開発をしなければ得られなかったようなものだ。著者の経験によって獲得した貴重なコツがそこにある。
例えば、「もし、プロダクトバックログに誰も追記しなくなったら、それはよくない兆候だ。」160頁。なんていうのはその経験がなければ到底かけないようなものだ。
270頁ちょっとで、漫画がいっぱい入っていてあっというまに読める。理解するのは簡単だけど実践するのは難しい。
本書を会社の同僚とじっくり読んで、スクラムを試してみる。そこに何かの気づき、発見があるはづである。上司を巻き込んでやってみて欲しい。
著者のみなさんに一つ提案がある。本書の英語版を読みたい。ぜひ、英語版を作って欲しい。世界にデビューして欲しい。
そんなことを思った良書である。ありがとうございます。