「エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告」と「アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男」を読んだ、濫読日記風、その21
「エルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告【新版】」と「アイヒマン調書――ホロコーストを可能にした男 (岩波現代文庫)」を読んだ
ナチスによるユダヤ人虐殺のキーマン、親衛隊中佐アドルフ・アイヒマン。1960年に拘束後、8ヶ月、275時間にわたる尋問が行われた。
前者はユダヤ人虐殺を首謀したアイヒマンの裁判を傍聴した記録。著者アーレントは本書の中で、イスラエルの裁判権、アルゼンチンからアイヒマンを拉致・連行したことの正当性、裁判そのものの正当性などを問う。アイヒマンは命令に従って実行しただけで罪の意識はない、法に従って粛々とユダヤ人を殺害していく小心者の役人として描かれる。巨悪は普通の人によってなされるということを本書は示している。そのような人は「悪を行う意図」を持っていない。新版に追加された山田正行の解説も参考になる。
後者はそのアイヒマン裁判の証拠となった調書をもとにしたドキュメンタリー。取り調べに当たったレス大尉(イスラエル警察)のあとがきに彼の思いが詰まっている。調書は淡々と質問を投げ掛けるだけなので、そこに感情の起伏はないが、あとがきにはそれがある。レス大尉の父親もアイヒマンのホロコーストの犠牲になったが、それを尋問中にアイヒマンに伝えた時のエピソードも書かれている。(386ページ)優秀な官僚が大量殺人という巨悪を行う。命令に従ったまでだという立場で自分を弁護するアイヒマンには良心の呵責は見られない。
組織の中では誰でも犯罪者になりうる。自分が犯罪者ではないのはたまたまそこにいなかっただけなのかもしれないと思うとそこに恐ろしさを感じる。
濫読日記風
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