未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

おじさんの飲み会に色気は必要か?

おじさんの飲み会問題について暑苦しく語る。多分このエントリーはわたし以外ほとんどの人が見ない寂れたものになりそうな予感がひしひしとする。釣り系のタイトルにしてもよかったのだけど、それはそれでむなしいので備忘録として記しておく。

前職でお世話になっていたTさんが東京に出てくるというので浜松町の小料理屋で飲み会をした。Tさんは今はなきタンデムとかSGIを渡り歩いた強者で、OSDL(Open Source Development Lab)の日本での立ち上げなどに尽力された。OSDLは IntelIBM、HPなどの他、NEC富士通、日立などが設立メンバーになっていて、後にFree Software Foundation Free Standards Group (FSG)と合併し、Linux Foundationとなる。Linus Torvalds がフェローをしている。

当時OSDLのメンバーにミラクル・リナックスもなっていて、わたしも一時期ボードのメンバーだった。ボードというのは会社で言えば取締役会みたいなものだから、それなりの手続きとかあって、それはそれでいい経験だった。米国のNPOの運営を実地で経験させてもらった感じである。というか、当時のLinux界というかOSS界というか、それと接点を持ちたい、IntelとかIBMとかHPのような会社の思惑(それはそれで理解ができる)と、米国のベンチャーのスピード感(これは本当にすごい)、そしてコミュニティーの温度感などを実際に見聞するという貴重な機会であった。

日本でのオープンソースコミュニティーは、ハッカーたちが細々と趣味でやっていたものがいきなりビジネスの人が発見して、ゴールドラッシュのような感じでビジネスの人が土足で乗り込んで来て、不愉快な感じしかないような、ある種、不幸な時期を経て、徐々にどうにか折り合いをつけるというようなのが、2002年とかそのくらいのような気がする。

わたしなんかはカーネル読書会なる勉強会だか飲み会だかわからないようなものを個人の趣味でやっていたので、一応コミュニティーの人みたいな顔も出来たのだけど、一方でオラクルのエンジニアで、オラクルのデーターベースがどーだこーだみたいなことも言っていたので、エンタープライズ的な人みたいにも見られていて、コウモリというか、どっち付かずな中途半端な位置にいた。

さらに話がめんどくさくなるのは、2000年にミラクル・リナックスを立ち上げたので、間違いなくビジネスな人という帽子もかぶらざるを得なくて、カーネルいいっすね、みたいなことを無邪気に語っているだけではいられなくなった。

カーネルいいっすねの趣味の話はカーネル読書会で昇華していたので、問題はなかったのだけど、ビジネスのドロドロしたところは、日本では大手ベンダーとの付き合いもあり、時にはネクタイをしめながら、お話をさせていただいた。ビジネスのところで言うとやっぱり米国のベンダーの大所高所からの攻めというか、実行力と言うか馬力と言うか、これはすごいなーというのを勉強させてもらった。(ここらへんのところは、日記にも書いていないので、ほとんどの人が知りようがない、あれやこれやである)

OSDLのボード会議での議論の仕方なんかは、あー、もうわたしみたいな素人には全然歯が立ちません、横綱と幕下くらいの力量というか、プロとアマチュアくらいの差があって、勉強し直しますと思っていた。

2000年にミラクルを立ち上げたときは、LinuxOSSエンタープライズに持って行くんだというアイデアマーケティングして行って、そのアイデアそのものは世界でも例をみないユニークなものだったのだけど、それを実行して、世界中をそのパラダイムに変えるだけの実行力が圧倒的に不足していた。正直言って、日本のマーケットでイニシアチブをとれればいいやくらいのことしか考えていなくて、これを持って米国や欧州さらには世界制覇だなんてことは考えていなかった。

今にして思えば、世界を狙わないのはITのビジネスとしてはありえないのだけど、そんなことは後から知ったことである。

結局、Red HatRed Hat Enterprise Linux(RHEL)を2002年に発表してハードウェアベンダーを一気に巻き取って市場を制覇するというような実行力がわれわれにはなかった。

2000年という絶妙なタイミングをわれわれは発見していたにも関わらず、未来を構築するだけの実行力に欠けていた。

オープンソースが世界を変えると思っていたし、その中心にいたいと考えていた。オープンソースが世界を変えた。しかし、われわれは残念ながら、その中心にはいなかった。それだけの力がなかったし発想力もなかった。

自分にとっての蹉跌は未来を発見したにも関わらず、それを作れなかったことにある。

おじさんの飲み会に色気がなかった話である。うーん、残念だ。

飲み会 - 写真共有サイト「フォト蔵」

注記:当初OSDLはFree Software Foundationと合併したと記したが、コメントで指摘されているようにFree Standards Group (FSG)の間違いである。訂正します。