未来のいつか/hyoshiokの日記

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「納品」をなくせばうまくいく、倉貫義人著、読了

「納品」をなくせばうまくいく ソフトウェア業界の“常識"を変えるビジネスモデルを倉貫さんからいただいた。ありがとうございます。早速読んだ。

倉貫さんの会社「ソニックガーデン」はいわゆるソフトウェアの受託開発の会社である。
SonicGarden 株式会社ソニックガーデン

ソフトウェア受託開発というのは顧客の要望するソフトウェアを作って、それを納品するということが基本的なビジネスモデルである。売上は通常、「納品」することによってたてる。納品しなければ売上がたたないという仕組みになっている。

ところが、ソニックガーデンは受託開発の会社にも関わらず、納品をしないという。意味がわからない。非常識である。そして、その非常識なビジネスモデルがどういうものかを説明したのが本書になる。

1章 常識をくつがえす「納品のない受託開発」
2章 時代が「納品のない受託開発」を求めている
3章 顧客から見た「納品のない受託開発」の進め方
4章 事例に見る「納品のない受託開発」
5章 「納品のない受託開発」を支える技術とマネジメント
6章 エンジニアがナレッジワーカーになる日
7章 「納品のない受託開発」をオープン化する

「納品のない受託開発」というのは一体どんなビジネスモデルなのだろうか。それには従来の受託開発が抱えていたどのような問題を解決するのだろうか。そしてそれはどのようなメリットを顧客やエンジニアに与えるのだろうか。実際、「納品のない受託開発」を利用しているユーザーはどのような経緯でそれを導入し、どのように感じているのだろうか。「納品のない受託開発」をどのようにマネージしているのだろうか。働いているエンジニアはどのような人で、どのように働いているのだろうか。その仕組みは普遍的なものなのだろうか、社会を変えるものなのだろうか。「納品のない受託開発」未来はどうなるのだろうか。

などなどの疑問に本書は答えている。それぞれの疑問と「納品のない受託開発」による回答は本書によるとしても、従来から指摘されている受託開発のビジネスモデルそのものが持つ本質的な問題について真摯に考えた倉貫さんの結論がここにはある。

例えば、一括請負の問題点として、作る方の会社はソフトウェアを作って納品することが目的なので、作ったものが発注側の役に立とうがたたなかろうが極論すれば関係ないということがあげられる。双方誠意を持って取り組んだとしてもそこには発注側と受注側の対立がある。一方が得をすることが一方が損をすることになる。受注側はリスクをさけるために、バッファーをもうけて、開発規模を多目に見積もる。生産性の低い方が、開発工数が膨らむので、生産性を高める経済的なインセンティブが働きにくい。一括で発注するので、使うか使わないかよくわからない機能をともかく盛り込んで、それがまた発注規模を膨らませる。受注側は、無駄な機能だと薄々気がついたとしても、契約金額が増えるので、無駄なものでも作成する。さらには、作成コストを下げるため、人件費の低い、非熟練者を当てることになり、エンジニアの成長にたいするインセンティブが発生しにくい。

ウォーターフォール開発が持つ様々な問題点に対して、「納品のない受託開発」はコロンブスの卵な発想で解決をはかる。

「納品のない受託開発」では月額定額の利用料金とする。専任のエンジニアを一人割当、その人が顧客企業の顧問としてシステム開発を行う。月額固定なので、仕様変更にも追加料金が発生しないし、ある問題を解決する策として、ソフトウェアを作らないということも提言できる。それは、弁護士や税理士のような「顧問」ビジネスである。

もちろん、どんなシステムも「納品のない受託開発」で構築できるとは言っていない。向くもの向かないものがある。そして、このビジネスが成立する前提として、「クラウド」やそれを利用したウェブサービスというものがある。発注側の企業の形態も、スタートアップなどとは相性がよさそうである。

技術的な前提としては、ソフトウェア開発の手法はウォーターフォールモデルではなく、アジャイル開発手法を使うし、オンプレミスではなくクラウドになる。

「納品のない受託開発」とはどんなものか知りたい人に取っては最適な一冊である。そして、このビジネスモデルをマーケティングするツールとしてはこれ以上のものはない。

たまたま本書を手に取った人が、この本に書かれていることに、自社のシステム開発が当てはまるならば、ソニックガーデンの未来の顧客になる可能性は高い。顧客自身がソニックガーデンを発見するようにしむけている一冊でもある。その意味でも新しいマーケットを創造している。

「納品のない受託開発」はイノベーションそのものだ。