未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

MADE IN JAPAN、盛田昭夫著、読了

[新版]MADE IN JAPANを再読した。

本書は、ソニーの創業者の盛田昭夫が1980年代に英語で記し、それを下村満子が日本語に翻訳し1986年に出版したものの新版である。当時、世界中で出版され、日本でもベストセラーになった。それを読んでみた。

若い人はあまりなじみがないかもしれないが、盛田昭夫ソニー井深大とともに1946年に創業し、一代で世界規模の企業に育て上げた。盛田昭夫 - Wikipedia

50年代にアメリカにわたってトランジスタラジオを売りまくる、1960年にソニーアメリカを設立し代表に就任する、日本企業として初めて米国でADRを発行、ニューヨーク5番街にソニーショールームを開設、1968年トリニトロン・カラーテレビを発売、1970年米国ニューヨーク証券取引所上場、1979年ウォークマン発売など。

本書が発行された1986年ころは、日本の経済的な成功が絶頂で今では考えられないが米国と経済摩擦が発生していた。日本から米国へ自動車、家電などが集中豪雨的に輸出され、その貿易不均衡が日米の懸案となっていた。

日本は不公正なことをやっているという米国の世論に対して、真っ向から反論を試みたのが本書である。前半は盛田とソニーの歩み、後半はソニーの経営哲学、アメリカ式と日本式のビジネスの方法、競争、テクノロジーイノベーションなどが忌憚のない議論がされている。

トランジスタは米国ベル研究所で開発された。しかしそれをラジオにして売り出したのはソニーである。新しい技術を研究開発し顧客が求めるもの商品を企画し販売する。

今日、エレクトロニクス産業は、日々急速に変化している。たった一つわかっていることは、このビジネスが決して停滞しないということだ。中略
この技術革新の敵はほかならぬ自社の販売組織であることがある。販売組織が力を持ちすぎては技術革新に水を差すことがよくあるのだ。新技術を使った新製品を作ると、セールスマンの再教育をしなくてはならない。それには莫大な費用がかかる。つまり新製品を開発するということには、研究開発、新設備、宣伝広告、販売促進の費用が必要になるということだ.また、今よく売れていて収益のよう商品を、流行おくれにしてしまうことである。しかもそれらの商品はセールスマンにとっては売りやすい品物なのだ。225ページ

これはまさに、後にクリステンセンが言う「イノベーションのジレンマ」そのものである。盛田は、後にイノベーションのジレンマと呼ばれるようなことに対して明確に問題を認識していた。そして、常に新しい製品を市場に提供する以外に生き残るすべはない。

また米国のCEOが四半期の売上、利益など短期的な視点で経営をすることをたしなめている。企業は長期的な視点で研究開発などに投資をしなければ、未来の利益を損なってしまう、それが競争力をなくしていると主張する。

しかし利益しか頭にないと、将来の好機を見失うことになる。見返りを利益でしか考えないアメリカの経営者がよく口にする言葉がある。「これから数年先に、わたしの後釜に座る人間のために、なぜ私が今、目の前にある私の利益を犠牲にしなくちゃならないのだ?」225ページ

「日本の企業は、市場占有率を目先の収益性よりもはるかに重大視する。287ページ」

盛田の先見性とビジョン、技術に対する確かな目。日本にもすごい起業家がいたのである。

皮肉なことに、日本の経営者は90年代から米国流の短期的な視点を取り入れそれ以降、長期的に経営が低迷している。ソニーも21世紀に入って元気がない。

いまこそ先人の智恵に学びたいと思った。