未来のいつか/hyoshiokの日記

hyoshiokの日々思うことをあれやこれや

「採用基準」伊賀泰代著を読んだ

本書は、『リーダシップの本来の意味とその重要性を理解し、それを身につけることによって、自らのキャリアと人生を自分の手で切り開く』(240頁)意義を、様々な例をあげながら平易に解説している。

先日読んだワークシフトも本書も自らの人生を自ら選ぶという、身も蓋もない当たり前のことをしつこく勧めている。それは、仕事の世界の「古い約束事」が崩壊しているからに他ならない。

『過去二十年間の働き方や生き方の常識が多くの面で崩れようとしている。例えば朝九時から夕方五時まで勤務し、月曜日から金曜日まで働いて週末に休み、学校を卒業してから引退するまで一つの会社で勤め上げ、親やきょうだいと同じ国で暮らし、いつも同じ顔ぶれの同僚と一緒に仕事をするーーそんな日々が終わりを告げ、得体の知れない未来が訪れようとしている』ワークシフト4頁。

著者は、マッキンゼーの採用担当マネージャーだった。採用したい人材像を正確に伝えられていないという思いで本書を執筆した。

グローバルビジネスの現場で求められている資質に関して、日本ではその基本的な概念さえ理解されていない、という現実でした。3頁

米国のビジネススクールは、世界から優秀な学生を集め、『「世界中のリーダーを排出している学校」という評判』を手にいれるだけではなく『アメリカ人学生に世界を教える』20頁という目的を持っている。

誤解される採用基準

  • ケース面接に関する誤解
  • ”地頭信仰”が招く誤解
  • 分析が得意な人を求めているという誤解
  • 優等生を求めているという誤解
  • 優秀な日本人を求めているという誤解

例えば、”地頭信仰”。コンサルティングのプロセスは1)経営の相談をうける。2)問題の解決方法を見つける。3)問題を解決する。(42頁)となる。このとき地頭が関係するのは2)のところだけで、1)、3)も重要なのだけど、”地頭信仰”に毒されるとそれが見えなくなるということを指摘している。

マッキンゼーの場合、1)リーダーシップがあること、2)地頭がいいこと、3)英語ができること。日本支社の場合、さらに4)日本語ができることとなっている。そして、このリーダシップがあって、頭が良くて、英語ができ、日本語も出来る日本人学生が極めて少ない(57頁)。

採用したいのは将来のリーダー(64頁)

問題解決に不可欠なリーダーシップ
『ここで理解すべきは、問題を解決するために必要なものが問題解決スキルというよりも、リーダーシップだということです』66頁

リーダーシップは全員に必要
『全員がリーダシップをもつ組織は、一部の人だけがリーダーシップをもつ組織より、圧倒的に高い成果を出しやすい』69頁

保守的な大企業で劣化する人
『また大企業では、黒字部門の利益で赤字部門を維持することができるため、社会人になってからずっと赤字部門で働いているという人もいます。そんな中で、「利益を出すこと=コスト削減すること」などという斜陽産業における常識を身につけてしまうと、急成長する事業分野や新興国でのビジネス展開を率いるリーダーになることは困難です』84頁

役職(ポジション)とリーダーシップ
『日本でリーダシップというと「野球部のキャプテンをやっていた」とか、「プロジェクトのリーダーを任されている〇〇さん」など、役職がその代替概念としてよく挙げられます。中略。しかしこれらはすべて役職名であり、リーダーシップの有無を直接的に表すものではありません。』97頁

リーダーがなすべき四つのタスク

1)目標を掲げる。2)先頭を走る。3)決める。4)伝える。

『「変化に適応する力のある人」を求めるという言い方がありますが、リーダーシップ・ポテンシャルの高い人を求めるという趣旨から言えば、変化への対応力が高い人ではなく、むしろ、「変化を起こす力のある人」が求められます。(中略)社会なり、組織なりを自ら変えられる人という意味です』120頁

マッキンゼー流リーダーシップの学び方

1)バリューを出す。2)ポジションを取る。3)自分の仕事のリーダーは自分。4)ホワイトボードの前に立つ。

例えば、ポジションを取るということは、『「あなたの意見は何か」、「あなたが意思決定者だとしたら、どう決断するか」という意味です』142頁。当事者意識を持って決断するということだ。

常に「バリューが出ているか」と問われることにより、プロセスや作業ではなく、結果(成果)にこだわる意識が刷り込まれる。常に自分の意見を求められることによって、「決断する」ことが訓練される。リーダーシップをとるために必要な要素技術である。

忘年会の幹事をやることもリーダーシップを養ういい訓練になる。

リーダー不足に関する認識不足

組織的・制度的な育成システムが不可欠であるが、それが不足していて、必要性の認識が低い。

すべての人に求められるリーダーシップ

1)すべての人が日常的に使えるスキルであること。2)訓練を積めば、誰でも学べるスキルであること194頁

勉強会やイベントの主催者、あるいはコミュニティの運営などをやっていると、すべての場面でリーダーシップを持っている人が求められているということは実感できるし、それは経験によって誰でも学べるというのも実感として理解できる。

オープンソースの世界では、リーダーの資質によって、そのオープンソースの発展の限界がほぼ決まる。LinuxRubyの発展は、間違いなくLinusやまつもとさんのリーダーシップによる。

一人一人が当事者意識を持つということは企業の発展に直接的に寄与するので業績の高い組織には多くのリーダーシップを発揮した人々がいるのだろうと想像する。

NPO、コミュニティーなどに参加することは、自分のリーダーシップスキルを高める非常によい機会だ。そして主体的に選ぶことを実践していけば、人生をコントロールできるようになる。

それは車のハンドルを握ることに他ならない。

日本においてほとんど理解されることがない、そして自分も十分理解していなかった「リーダーシップ」という概念を平易に解説した良書である。

一読をお勧めする。